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東京地方裁判所 平成4年(ワ)15891号 判決

原告

関守男こと

關守男

伊藤清忠

安藤三男

佐藤昌祐

右四名訴訟代理人弁護士

淵上貫之

鈴木国夫

被告

芹沢昭こと

芹澤昭

右訴訟代理人弁護士

下井善廣

井手大作

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、別紙物件目録記載の土地上の駐車場について、別紙第二図面の(ロ)点及び(ハ)点を結ぶ直線を、駐車場の出入口としてはならない。

2  被告は、原告關守男に対して金一〇〇万円、原告伊藤清忠に対して金五〇万円、原告安藤三男に対して金一〇〇万円及び原告佐藤昌裕に対して金五〇万円並びに右各金員に対する平成六年三月三〇日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  (当事者等)

(一) 原告ら及び被告は、東京都練馬区東大泉三丁目の大泉学園通り(幅員6.5メートル。以下「バス通り」という。)の東側に接続する一方通行の道路(幅員3.65メートル。以下「本件道路」という。)に面した各肩書住所地に居住しており、その位置関係は別紙第一図面のとおりである。

(二) 被告は、本件道路西南側入口に別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有し、同土地上に賃貸マンション(芹沢マンション)や住居(芹沢宅)及び車庫を所有し、右賃貸マンション一階において喫茶店「ミッシェル」を経営するとともに、本件土地の東北側部分(約三七二平方メートル)に別紙第一図面及び第二図面のとおりの駐車場(以下「本件駐車場」という。)を建設した。

2  (契約の成立)

被告は、平成四年三月一〇日頃解体業者を連れて原告關、同安藤及び同伊藤方を訪れ、被告敷地にあったアパートを取り壊してその後に駐車場を造るが、出入口はバス道路に面した側につけるのでよろしくと挨拶した。そのため、原告らは、駐車場の出入口がバス道路に面した側に付けられるものと思っていた。七海建設株式会社が平成四年五月二六日土地の造成工事を始めたので、原告伊藤は、現場責任者である秋田英昭に出入口の設置場所を確かめた。すると、秋田は、原告關の自宅前が出入口となると言った。原告らは、驚いて、その数名の近隣住民とともに同日夜被告経営の喫茶店に被告を訪れ、従来の言明どおりバス道路側に出入口を設置して欲しい旨を要望したところ、被告は、現在あるガレージを壊し、バス道路側に出入口を造る旨約束した。原告らも、その約束をしてくれるのであれば、深夜や早朝における駐車場内の車両又は運転者の音声、必要以上の排気ガス発生等多少の問題があっても受忍すべきものと考え、駐車場建設を了承した。

しかし、その後被告側は、前言を翻して、役所の規制があるから、バス道路側に出入口を設置することはできないと通告してきた。そこで、原告らと被告側の数回の折衝の後、同年六月二日七海建設の秋田及びその上司の佐藤稔が、被告を代理して、原告らに対し、本件通路の西側端に出入口を設けることを申し出たので、原告らもこれを承諾した。この合意内容については、翌三日文書及び図面が秋田らによって作成され、被告は、別紙第二図面ニ点とホ点とを結ぶ線に相当する位置に出入口を設置し、原告らは、その設置を受忍し、工事と完成後の管理に協力するという契約が、原告らと被告との間において成立した。

3  (債務不履行)

しかし、被告は、同月一二日口頭により、同月一六日と一九日にはいずれも内容証明郵便により、原告關に対し、前記契約を一方的に破棄する旨を通告し、駐車場の出入口を別紙第二図面ロ点とハ点とを結ぶ線及び同第三図面のAからEまでの各箇所に設置してしまった。

4  (差し止め請求)

被告が平成四年三月一〇日に原告らに駐車場の設置場所をバス通り側に設けることを申し込んだ際、原告關はこれを承諾しているから、この時にその趣旨の契約が成立している(以下「契約一」という。)。また、同年五月二六日にも前記のとおり、原告らと被告との間において、同趣旨の契約が成立している(以下「契約二」という。)。更に、同年六月二日には、具体的な駐車場設置場所について前記のとおりの契約が成立している(以下「契約三」という。)。被告は、これらの契約上の債務の全部又はいずれかを履行しないで、駐車場を設置したものであるから、原告らは、被告に対し、契約一から三までのすべて又はそのいずれかに基づいて、現在の本件駐車場の出入口を現況のとおりとすることを差し止めることを求める。

5  (不法行為)

被告の本件駐車場の設置は、次の事情があるので不法行為である。

(一) 本件道路は、幅員の狭い、一方通行の道路であって、原告らはもっぱらにこれを生活用道路として、私道のように利用してきたものである。また、本件道路を挟んだ一帯を含む原告らの住所地は、閑静な住宅地である。原告らは、この練馬区内でも有数の良好な生活環境を維持享受し、その生活環境の中で生活する権利を有する。

(二) ところが、被告が本件土地上に二〇台もの駐車空間のある本件駐車場を設置したことにより、交通量が増加し、原告安藤の自宅では騒音と排気ガスのために、原告らは窓を開けておくことができないような状態になり、静かな住宅街の環境は破壊されている。原告安藤の義父にいたっては、被告の駐車場の排気ガスにより、ぜんそくを発症している。

(三) 原告關の自宅は、本件駐車場の出入口の正面にあることから、ガスなどの工事の際にも原告關の自宅の前に工事関係車両を長い間駐車させておくことができなくなり、また、本件駐車場が、出入口に向かって傾斜していることから、冬季に路面が凍結する場合もあることを考えると、非常に危険な状態である。

6  (損害)

原告らは、被告の債務不履行又は不法行為により精神的損害を被ったが、これを慰謝するためには、原告關守男に対しては一〇〇万円、原告伊藤清忠に対しては五〇万円、原告安藤三男に対しては一〇〇万円及び原告佐藤昌弘に対しては五〇万円がそれぞれ支払われるべきである。

7  (まとめ)

よって、原告らは、被告に対し、本件契約一、二若しくは三の全部又はいずれかの債務の履行として、別紙第二図面の(ロ)及び(ハ)の各点を結ぶ直線を本件駐車場の出入口としないことを求めるとともに、債務不履行又は不法行為による損害賠償として、原告關守男に対して一〇〇万円、原告伊藤清忠に対して五〇万円、原告安藤三男に対して一〇〇万円及び原告佐藤昌裕に対して五〇万円並びに右各金員に対し訴え変更申立書の送達の日の翌日である平成六年三月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)及び(二)の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実のうち、原告主張の出入口を設けたことは認め、その余は争う。

4  同4の事実は否認する。

5  同5の事実はいずれも否認する。

6  同6の事実は否認する。

第三  証拠

本件書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(一)及び(二)の事実については、当事者間に争いがない。

二1  住宅が建ち並ぶ地域の中に二〇台程度の自動車を収容できる駐車場を造れば、そこへの自動車の出入りに伴う騒音や排気ガスの発生によって、近隣住民がある程度迷惑を被ることは避けられないし、頻繁に車が出入りすることによる交通事故への懸念も生じよう。近隣住民がこのような施設が設置されることを快く思うはずがないから、このような駐車場を造ろうとする者は、できるだけ近隣に及ぶ迷惑が少なくなるように駐車場を設け、なるべく近隣住民の納得を得て、その建築をしたいと考えるのが当然であるし、その者が近隣住民と同様にその地域に居住している者であれば、なおさらそうである筈である。近隣の住民としても、土地所有権を有する者がその土地を利用して駐車場を建設することを選択すること自体は、その者の営業の自由に属する事柄であるから、その建設が行政規制等に従って行われるものである限り、その建設自体を否認することはできないものの、そのような施設が住居地近くにできることは望ましくはないことであるから、できる限り規模の小さい、近隣に及ぶ迷惑の小さいものであることを望み、場合によっては、ある程度建設について、施主に注文をつけることもあり得よう。

このように、駐車場の建設については、施主も、近隣住民も、その在り方について、話合いがされたうえ、事業が双方の合意の上で進められることを期待していると認められる。このような見地から、話合いが行われて、合意が得られ、これによって駐車場が建設されるのが望ましいことはいうまでもないことである。

しかし、このような話合いが妥結しないこともあり得る。その場合、駐車場の建設について法令上近隣住民の同意が義務づけられている訳ではないから、施主は、その建設が行政規制をクリアするものである限り、仮に近隣住民の合意が得られなくとも、やむを得ないものとして、建設を行うことは選択としてあり得ることである。その建設する駐車場の規模がそれ程大きくなく、必ずしも近隣にかける迷惑が大きくないとする考えなどから、施主において、近隣住民の同意にそれ程大きな意味付けを与えていないときには、そのような選択をすることが多くなると考えられる。

このように、駐車場建設の施主が、近隣住民の同意が得られることを望ましいこととしつつ、その同意が得られなくとも事業を継続しようとすることも大いにあり得ることである。

原告らは、本件において、契約一から三までの全部又は一部が成立したと主張する。しかし、これらの契約は、いずれも、被告の駐車場事業に対し一定の規制を加えるものとして、原告ら近隣住民の全部又は一部にとってメリットのあるものではあるが、施主側にとっては、駐車場の建設について近隣住民の合意が得られるという以上のメリットはないものである。

近隣住民の合意が得られなくとも事業を行おうと考えている施主にとっては、その合意が得られるというメリットもさして大きなものではないことになるから、このような契約は、ほとんど施主側に一方的に不利益を課すものということになる。このような自己に不利益な義務を課す契約内容の申込みについては、何人もこれをた易く受諾するとは考えられないから、口頭によってこのような契約が成立したとの主張事実は、被告側においてその成立を認めるものでない限り、原告側においてどのようにこれを裏付ける供述をしようと、容易に認め難いものという他はない。

2  本件において、これをみるに、まず契約一については、成立に争いのない甲第一ないし第二二、第二八ないし第三三、第三九号証及び乙第一ないし第四号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第二三号証、乙第五号証、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる甲第二七、第三六並び乙第六号証、証人關繁子の証言により真正に成立したものと認められる甲第三四号証、証人安藤圭子の証言により真正に成立したものと認められる甲第三五号証、証人關繁子、同安藤圭子及び同秋田英昭の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、被告は、平成四年三月一〇日ころ、本件駐車場の設置工事をすることのあいさつとして、解体業者を連れて、原告關、同伊藤及び同安藤の自宅をそれぞれ訪問し、本件土地上に建てられていたアパートを取り壊し、その跡地に本件駐車場を造ること、本件駐車場の出入口をバス通りに面する側に設ける予定であることを伝えたうえ、右アパートの解体作業に入ったこと、被告は、右解体作業後、七海建設株式会社との間で、本件土地上に本件駐車場を建設する内容の請負契約を締結したが、その際、本件土地を最も有効に駐車場として活用するため、出入口を現状と同様に別紙第二図面の(ロ)点及び(ハ)点を結ぶ直線上に設けることを決めたことが認められる。

被告が平成四年三月一〇日ころ、原告らに対し、バス通り側に出入口を設置することを伝えたのは、右に認定したとおり、単に本件駐車場の出入口を設置する予定の場所を明らかにし、右工事開始のあいさつをしたというにとどまるものであって、右バス通り側に出入口を設置することを条件として原告らにその承諾を求めたものとは認め難い。

したがって、契約一が成立したことを認めることはできない。

3  次に、契約二については、前掲証拠によると、次の事実が認められる。すなわち、七海建設株式会社は、平成四年五月二六日、本件土地の造成工事を開始したが、原告伊藤が七海建設株式会社の現場担当者である秋田英昭に対し、本件駐車場の出入口の設置場所を尋ねたところ、右秋田は、別紙第二図面の(ロ)点及び(ハ)を結ぶ直線上の場所を示して説明したこと、原告伊藤は、当初の被告の挨拶でバス通り側に駐車場の出入口が設けられるものと考えていたことから、本件道路の交通量が増加し、住宅環境が悪化することを危惧し、本件駐車場の出入口の正面に自宅がある原告關を訪ね、右出入口の設置の位置の問題について相談したうえ、同日昼過ぎころ、被告を原告伊藤の自宅に呼び出し、当初被告が説明したように出入口をバス通り側に造ることを求め、さらに、原告ら四名と訴外原田美香子は、同日午後九時ころ、近隣住民の署名を集めたうえ、被告の経営する喫茶店「ミッシェル」を訪ね、前記出入口をバス通り側に設置するよう求め交渉したところ、被告は、右工事をいったん中止したことが認められる。原告らは、右交渉の席で、被告が自家用の駐車場を取り壊し、その場所に本件駐車場の出入口を設置する旨を述べ、原告らがこの申し出を承諾したと主張し、前記甲第三四ないし第三七号証、証人關繁子の証言中にはこれに沿う供述部分がある。しかし、前記乙第二五号証の1ないし4、乙第二六号証の1及び2によれば、同日の昼過ぎころに、原告らが初めてバス通り側に出入口を設置するよう申し入れたのであり、右交渉が同日の午後九時ころであること、被告の自家用駐車場は屋根及びシャッターの設置されたコンクリートづくりの堅固なものであり、取り壊し工事を行うことも容易なものではなく、またそのように設計を変更することによって工事費用も増大することになること、前記のとおり駐車場工事において必ずしも原告らの同意が必要ではないことからすれば、前記供述部分を採用することができず、この時点で被告が原告らに対して、バス通り側に出入口を設置することを約したと認めることはできない。

4  さらに、契約三の事実については、前掲証拠によると、次の事実が認められる。

(一)  原告らを含めた近隣住民と被告及び七海建設株式会社は、平成四年五月二九日、話し合いを持ったが、この席で秋田は、出入口をバス通り側に造ることは行政規制によってできないことを説明した。

(二)  原告らは、平成四年五月三〇日、練馬区役所及び石神井警察署に赴き、バス通り側に出入口を設けることが可能かどうかについて調査したところ、被告が本件土地上に建設済みであった自家用の屋根付き駐車場がバス通りに面していることから、この駐車場を取り壊し、この地点に本件駐車場の出入口を設けるのであれば、バス通り側に右出入口を設置することが可能であるとの説明を受けた。

(三)  原告らを含む近隣住民は、平成四年六月二日、秋田及び佐藤と面談したところ、秋田らが原告らとの妥協案として三案を示したが、これらの三案はいずれも本件道路側に出入口を設置するものであり、原告らの意向に沿うものではなかった。このため、原告らは、被告の自宅用駐車場を取り壊してバス通り側に出入口を設置することを求めたが、秋田及び佐藤は、被告の所有物である車庫の取り壊しを決定することはできなかったことから、これを被告との検討事項とし、被告が同意すれば駐車場を取り壊すが、そうでない場合には、原告らの意向に沿うよう、本件道路のうち、バス通り側に近い位置に駐車場の出入口を設置する方向で、被告を説得するということで話し合いは終了した。

(四)  被告は、秋田らと検討した結果、原告らの要望に沿うよう、本件道路のうち、バス通り側に近い位置に駐車場の出入口を設置することとし、平成四年六月三日、右位置に出入口を設置する形での図面と、「芹沢邸駐車場工事のお知らせ」が近隣住民のポストに配られ、右図面に従った工事が進められた。

(五)  被告は、平成四年六月一二日、七海建設株式会社に対し、工事の中止を申入れるとともに、出入口の設置について、当初の計画に戻すよう申し入れたところ、七海建設株式会社は、現状の本件駐車場を完成させた。

しかし、平成四年六月二日の、原告らと秋田及び佐藤との交渉については、右に認定したとおり、原告らはあくまでも駐車場の出入口をバス通り側にするよう求めていたこと、秋田らは、原告らの申し入れに確定的に回答することはできず、被告と原告らの申し入れを検討することを約束したにとどまることが明らかであって、したがって、この時点で、秋田及び佐藤が、被告の代理人として、原告らに対し、本件駐車場の出入口をバス通り側に設けること又は本件道路のうち、バス通り側に近い位置に駐車場の出入口を設置することを確約したと認めることはできない。

しかも、証人關繁子の証言によっても、秋田及び佐藤は、本件道路のうち、バス通り側に近い位置に駐車場の出入口を設置するという妥協案で、被告を説得する旨を原告らに述べたということが認められ、代理人として交渉したものと認めることはできない。また、甲第二三号証によると、この書面は工事を再開するに当たり原告らに届けられ、これに従って工事が再開されたことが認められるが、これは、施主側は一方的に工事予定を示したものにすぎず、これをもって原告らに対して、原告らの申し入れを承諾し、原告らに本件駐車場の出入口を右妥協案のとおりすると合意したものと認めることはできない。したがって、被告が、右妥協案に従った工事を行うことにしたとしても、いったんは原告らの要望を入れたかたちで工事を行おうとし、そのことを一方的に伝えたものにすぎないから、後にこれが翻意されたとしても、契約に違反するものと認めることはできない。

よって、契約三が成立したことを認めることができない。

5  以上のとおり、原告らと被告との間で本件駐車場の出入口の設置位置について、何らかの契約が成立したと認めることはでないから、契約一ないし三に違反したことを理由とする債務不履行の主張は、その余の点につき検討するまでもなくその前提を欠き失当である。

三  そこで、不法行為の主張について判断する。

1 原告らは、被告の本件駐車場設置により、本件道路の交通量が増え、また、本件駐車場を利用する車が出す排気ガスにより空気が悪くなるなど、住環境が破壊されたと主張するが、前掲証拠によれば、本件道路はバス通りに面しており、バス通り自体の交通量は元々多いものであること、本件道路は公道であり、幅員が3.65メートルある一方通行道路であること、原告ら及び被告の住居となっている本件土地の周辺は西武池袋線大泉学園駅の近郊に位置していることが認められることに照らすと、一般の乗用車が無理なく通行しうる程度の幅員である本件道路に、出入口を設置するかたちで二〇台程度の自動車を収容する駐車場を建設することが土地の利用方法として通常考えられる範囲を逸脱しているものと判断することはできず、仮に、これにより原告らが不快に感じることがあるとしても、本件駐車場の規模、態様、原告らが主張する被害の性質、程度にかんがみても、本件駐車場の設置は、社会通念上受忍限度内にあるというべきである。なお、原告らは、原告安藤の父は、本件駐車場建設後ぜんそくになったと主張するが、本件全証拠によっても、本件駐車場の建設と右ぜんそくとの因果関係を肯定することはできない。

2  ところで、原告らは、本件駐車場は乗用車を二〇台収容できるものであることから、右建設に当たり練馬区役所に届け出る必要があるところ、この手続を行っていないことから違法であるとも主張するが、被告が具体的にどのような行政手続に従っていないかが明らかではないから、この主張については判断を加えない。なお、届け出違反の事実があったからといって、直ちに不法行為にいう違法性を具備するものとならないことはいうまでもない。

3  したがって、原告らの不法行為の主張は、その余について検討するまでもなく失当である。

四  よって、原告らの請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中込秀樹 裁判官河野清孝 裁判官金澤秀樹)

別紙物件目録、図面〈省略〉

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